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宋代中国都市の形態と構造

伊原弘著. -- 勉誠出版, 2020.
ISBN:9784585220695
総合評価:

1

高橋弘臣先生の「学生にすすめるこの一冊」

著者は長年にわたって中国宋代(960~1279)の都市研究に従事しており、これまでにも『中国中世都市紀行』・『中国開封の生活と歳時』・『清明上河図をよむ』等の著書・編著を多数発表している。本書は、著者が執筆した宋代の都市に関する研究論文のうち、主に地図や絵画を資料として用いたものを収録した論文集である。

本書は3部から構成されており、第1部では、蘇州の詳細な地図『宋平江図』、宋元時代の地方志に載せられている南京の地図、清代の北京に関する地図『乾隆京城全図』等を取り上げ、都市の形態・構造やその変遷について詳細な分析を行っている。

第2部では、北宋の都開封を描いたとされる絵画資料『清明上河図』を用い、この資料が開封のどの場所を描いているのかについて分析を加える。その結果、描かれているのは開封の城内ではなく、実は城外(郊外)の聚落であるという大胆な指摘をしている。また『清明上河図』に見える人々の姿を通じ、当時の都市の経済活動を検討する。

第3部では、宋代に国際的な貿易港として繁栄し、多くの外国人が居住していた泉州の都市社会や宗教について検討する。また中国には、寺院に対し行われた寄進の様子を記す石刻資料が存在するが、その分析を通じ、南宋の都となった臨安(杭州)や台州の庶民の経済力について考察する。さらに宋代の都市に設けられた公共墓地(漏沢園)の遺跡から発掘された墓誌を分析し、当時の庶民、特に下級兵士の生活を明らかにしている。

中国の都市研究では、従来主に漢文史料が用いられてきた。しかし本書は地図・絵画の他に、考古遺物等を資料として活用しており、都市研究の資料に関する新たな可能性を提示した点は高く評価される。また文章が平明であり、非常に読みやすい。中国史や都市史に興味のある学生諸君に、一読をおすすめする。


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